結節性多発動脈炎

1. 疾患概念

1866年にKussmaulとMaierが全身諸臓器の小動脈周囲に結節性の炎症を生じた症例を結節性動脈周囲炎(periarteritis nodosa)として報告したのがこの疾患のはじまりである。1866年と言えば、日本では坂本龍馬が活躍していた時代であり、その頃にこのような概念が提唱されていたことは驚きである。本疾患の特徴は、中・小型動脈にフィブリノイド壊死を伴った血管炎の存在であり、壊死性血管炎をきたす代表的な疾患と言える。炎症が動脈周囲に起こるのではなく、動脈壁そのものにおこることが明らかになったため、現在は結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa)とよぶ。Chapel Hill Consensus Conference (CHCC) 20121)においてPANは「中小動脈の壊死性血管炎で、糸球体腎炎や細動静脈、毛細血管に血管炎を認めず、ANCAとは関連しない」と定義されている。つまり、PANは多彩な症状を呈するが、小血管(arteriole、capillary、venule)の炎症を伴ったPANは存在しないということになる。


2. 疫学

正確な患者数は不明であるが、全国の患者数は250例程度と推定されている。専門診療科を有する大学病院でも典型的なPANは数例程度で、きわめてまれな疾患である。なお発症年齢は40~60歳に多く、3:1でやや男性に多い。


3. 病態生理

発症原因は不明である。以前にB型肝炎ウイルス感染との関連が欧米で報告されていたが、本邦では明らかでない。急性期病変としてフィブリノイド壊死が認められることが病理組織学的には重要である。また内膜および中膜の線維化などの瘢痕期病変と急性期病変を同一血管上に伴うことが、もう一つの特徴である。なお、これらの変化が皮膚のみに限局し、全身性の血管炎症状に乏しい皮膚型PANも存在する2)


4. 症状3)

全身症状と、中・小型血管炎による阻血症状が認められる。前者として、38℃以上の高熱(不明熱の原因となり得る)、体重減少(数か月内に6か月以上)、筋肉痛、関節痛(非破壊性)に加えて高血圧が20%程度に認められる。後者として、皮膚症状では皮下結節、網状皮斑、潰瘍・壊疽、紫斑など、腎症状としては、腎動脈の血流低下に伴う腎血管性高血圧、腎機能低下、腎不全などがある。腎動脈瘤や腎梗塞なども認められることがあるが、糸球体腎炎の所見は乏しい。腹部症状としては、腹腔動脈の炎症により腹痛、下血や時により腸管穿孔も起こしうる。末梢神経障害として、神経栄養血管の阻血により正中・尺骨・腓骨・腓腹神経の多発性単神経炎が見られる。また、中枢神経症状として、脳出血・脳梗塞などをきたすことがある。心症状はまれではあるが、冠動脈が傷害されれば心筋梗塞や伝導障害が生じる。


5. 検査

ANCAは陰性であり、有意な抗核抗体も見いだされないことが多い。通常、白血球増多や貧血、血小板増多が見られ、赤沈値亢進やCRPの上昇がある。しかし皮膚型PANではこれらの炎症所見が明らかでない。臨床症状からCTやMR angiographyによる中動脈の走行異常(途絶や片影不整、動脈瘤など)を確認すること、また皮膚生検でフィブリノイド壊死を確認することが重要である。なお皮膚結節など有所見部からの組織採取が望まれる。


6. 診断

本疾患は厚生労働省の指定難病に指定されており、難病情報センターに記載がある(http://www.nanbyou.or.jp/entry/244)。実際には、厚労省難病の認定基準(2006, 表1)もしくはアメリカリウマチ学会の分類基準(1990, 表2)4)を参考にすることが多い。注意すべき点は、厚労省基準は特定疾患(指定難病)の申請のための基準であること、アメリカリウマチ学会の基準は、臨床試験などのために全世界で均一なPANをデータベース化することを目的としていることであろう。【概念】に示した2012 CHCCの定義1)を参考としてANCA関連血管炎を除外し、【症状】ところで述べた臨床症状に関連して組織学的に中小動脈の壊死性血管炎が証明されれば診断しうる。


7. 治療5)

PANの治療もANCA関連血管炎と同様、寛解導入療法と寛解維持療法の2段階にわけて考えることが多い。ただし皮膚型PANはこの限りではない。寛解導入には大量ステロイド療法を第一選択として使用し、難治例ではシクロホスファミド(通常間歇静注療法)やアザチオプリンを追加併用する。近年、ANCA関連血管炎の治療エビデンスが増えてきているが、PANについてはほとんどなく(症例数が全世界的に少ないためと思われる)、症例ごとに薬剤選択が検討されていることがほとんどである。


8. 予後

未治療の場合1年生存率は約50%であり、寛解導入療法に対する反応がきわめて重要である。予後を規定する因子として、①1日1g以上の蛋白尿、②尿毒症、③心筋症、④腸管病変、⑤中枢神経病変などがあげられており、このうち二つ以上を有すると5年生存率が50%程度とする報告がある。また高血圧などの合併症による血管障害にも注意が必要である。さらに生命予後においては、ステロイドや免疫抑制薬を長期間服用することによる感染症が常に問題となる。


参考文献

  1. Jennette JC, et al. 2012 Revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Vasculitis. Arthritis Rheum 2013;65;1-11.
  2. 古川 福実.結節性多発動脈炎.皮膚型結節性多発動脈炎の診断と治療.日本臨床2013;71(増):408-412.
  3. 高橋 啓.結節性多発動脈炎.日本リウマチ財団 教育研修委員会、一般社団法人 日本リウマチ学会 生涯教育委員会 編.リウマチ病学テキスト 改訂第2版.pp.253-256、2016.診断と治療社、東京.
  4. Lightfoot RW Jr, et al. The American College of Rheumatology 1990 criteria for the classification of polyarteritis nodosa. Arthritis Rheum 1990;33:1088-1093.
  5. 舟久保ゆう、三村 俊英.結節性多発動脈炎.結節性多発動脈炎の診断と治療.日本臨床2013;71(増):401-407.

表1.厚労省の認定基準(2006)

【主要項目】

1. 主要症候
  1. 発熱(38℃以上,2週以上)と体重減少(6ヶ月以内に6kg以上)
  2. 高血圧
  3. 急速に進行する腎不全,腎梗塞
  4. 脳出血,脳梗塞
  5. 心筋梗塞,虚血性心疾患,心膜炎,心不全
  6. 胸膜炎
  7. 消化管出血,腸閉塞
  8. 多発性単神経炎
  9. 皮下結節,皮膚潰瘍,壊疽,紫斑
  10. 多関節痛(炎),筋痛(炎),筋力低下

2. 組織所見

中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在


3. 血管造影所見

腹部大動脈分枝(特に腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞


4. 判定

① 確実(definite)
主要症候 2 項目以上と組織所見のある例

② 疑い(probable)

  1. 主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例
  2. 主要症候のうち①を含む 6 項目以上存在する例


5. 参考となる検査所見

① 白血球増加(10,000/μl以上) ② 血小板増加(400,000/μl以上) ③ 赤沈亢進 ④ CRP強陽性


6. 鑑別診断

① 顕微鏡的多発血管炎
② 多発血管炎性肉芽腫症 (旧称:ウェゲナー肉芽腫症)
③ 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎 )
④ 川崎病動脈炎
⑤ 膠原病(SLE,RA など)
⑥ IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎 )


【参考事項】

  1. 組織学的にⅠ期変性期,Ⅱ期急性炎症期,Ⅲ期肉芽期,Ⅳ期瘢痕期の4つの病期に分類される。
  2. 臨床的にⅠ,Ⅱ病期は全身の血管の高度の炎症を反映する症候,Ⅲ,Ⅳ期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。
  3. 除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが,特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。

重症度分類

1度

ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。


2度

ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも。
臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。


3度

機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障をきたしている患者。臓器病変の程度は注1のa~hの何れかを認める。


4度

臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hの何れかを認める。


5度

重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障をきたしている患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hの何れかを認める。


注1:以下のいずれかを認めること

  1. 肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、Pa02が60~70Torr。
  2. NYHA 2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上認める。
  3. 血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dlの腎不全。
  4. 両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。
  5. 拇指を含む2関節以上の指・趾切断。
  6. 末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。
  7. 脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力4)。
  8. 血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。

注2:以下のいずれかを認めること

  1. 肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。
  2. NYHA 3度の心不全徴候を認め、胸部X線上 CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、の何れかを認める。
  3. 血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dlの腎不全。
  4. 両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。
  5. 1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。
  6. 末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。
  7. 脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。
  8. 血管炎による両眼的下血、嘔吐を認める。

注3:以下のいずれかを認めること

  1. 肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。
  2. NYHA 4度の心不全徴候を認め、胸部X線上 CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2以上を認める。
  3. 血清クレアチニン値が8.0mg/dlの腎不全。
  4. 両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。
  5. 2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。
  6. 末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。
  7. 脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。
  8. 血管炎による消化管切除術を施行。

表2.アメリカリウマチ学会 (ACR) の分類基準(1990)

  1. 体重減少: 発病以降に4kg以上の体重減少
  2. 網状皮斑: 四肢や体幹に見られる斑状網状パターン
  3. 精巣痛・圧痛: 精巣痛、精巣圧痛
  4. 筋痛・脱力・下肢圧痛: 広範囲の筋痛(肩、腰周囲を除く)、筋力低下あるいは下肢筋肉の圧痛
  5. 単神経・多発神経障害: 単神経障害の進行、多発単神経障害または多発神経障害
  6. 拡張期血圧>90mmHg: 拡張期血圧90mmHg以上の高血圧の進行
  7. BUNあるいはCr上昇: BUN>40mg/dlまたはCr>1.5mg/dl
  8. B型肝炎: 血清HBsAgあるいはHBsAbの存在
  9. 動脈造影での異常: 動脈造影にて内臓動脈に動脈瘤あるいは閉塞
  10. 小型あるいは中型血管の生検にて認められる多形核白血球: 動脈壁に顆粒球と単核球の存在を示す組織学的な変化

以上10項目のうち3項目以上でPANと分類する。

研究代表者 針谷正祥 ご挨拶
血管炎各疾患の解説
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