1. 疾患概念

川崎病は、川崎富作博士が世界に先駆けて発見した主に乳幼児に発生する急性熱性全身性血管炎である。発症原因は不明であるが、特に冠動脈に強い炎症を生じることが特徴的であり、無治療では約15〜25%の症例で冠動脈瘤を形成し、約2%が急性冠症候群により突然死に至る。川崎病は、国際的な血管炎の分類(CHCC2012) では、中型血管炎に分類されている。

2. 疫学

川崎病は主に0歳から4歳までの乳幼児に好発し、特に1歳前後の乳児の発症率が高い。日本人を含むアジア系人種が最も川崎病発症リスクが高く、男児は女児に比べて発症リスクが高い(約1.3倍)。本邦では1970年代から川崎病全国調査が開始され、2年ごとに詳細な疫学情報が収集されてきた。過去3回の流行を認めた後、発症数および罹患率は右肩上がりであったが、新型コロナウイルスパンデミック後に発症数および罹患率は3割程度減少し、その後罹患率は再上昇傾向である。その罹患率から、小学校入学時に80人に1人は川崎病既往者であることが推定されている。発症には季節性があり、冬から春にかけて発症が増加する傾向が見られたが、この傾向も新型コロナウイルスパンデミック中は該当せず、今後の疫学像の変化が注目される。家族内発症や、以前に川崎病に罹患したことがある兄弟姉妹がいる場合、発症リスクが高まる事も知られている。

3. 病態生理

川崎病の正確な病態生理は解明されていないが、主病態は,免疫系の異常な活性化によって惹起される中動脈を中心とした汎血管炎と考えられている。遺伝的素因や何らかの後天的因子(感染症等)によって活性化されたT 細胞やマクロファージが大量の炎症性サイトカインを放出し、好中球や血管内皮細胞が活性化される。活性化した好中球は接着因子を介して内皮細胞に接着して血管内皮細胞障害を引き起こし,血管壁を場とした炎症が惹起される。炎症の進展に伴い血管の強度を保っている内外弾性板や中膜平滑筋層が破壊され、冠動脈は遠心性に拡大する。内皮細胞障害は凝固線溶系の活性化を引き起こし、形成された動脈瘤内に血栓を形成する例は、高率に急性冠症候群を引き起こす。

4. 診断

川崎病の診断は、特異的な検査所見が存在しないため、臨床症状と経過に基づいて総合的に行われる。「川崎病診断の手引き」が診断基準として広く用いられており、現在改訂6版が使用されている。以下の川崎病6主要症状のうち5症状以上を満たす場合、または4主要症状しか認められなくても他の疾患が否定され冠動脈病変を呈する場合は川崎病と診断する。

  1. 発熱
  2. 両側眼球結膜の充血
  3. 口唇の紅潮、苺舌、口腔咽頭粘膜の発赤
  4. 発疹( BCG接種痕の発赤を含む)
  5. 四肢末端の変化:
    (急性期)手足の構成浮腫、手掌足底または指趾先端の紅斑
    (回復期)指先からの膜様落屑
  6. 急性期における非化膿性頚部リンパ節腫脹

前述の基準は満たさないものの他疾患が否定され参考条項から川崎病が最も考えられる場合は不全型川崎病と診断する。発熱と発疹を伴う他の小児疾患(麻疹、風疹、溶連菌感染症、アデノウイルス感染症、伝染性単核球症など)や、他の小児血管炎(急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群など)との鑑別が重要である。

5. 検査

川崎病の診断に直結する特異的検査はなく、主に他の疾患の除外や疾患の重症度、合併症の評価、治療効果の判定のために各種検査が行われる。改訂6版においては参考条項が大幅に改訂され、小見出しとして以下の急性期治療抵抗性に強く関連する変数が示され、不応例予測スコアを参考にすることが望ましいと記載されている。代表的な不応例予測スコアを表1に示す。

表1. 不応例予測スコア:スコア点数が5点以上を治療不応高リスク患者と判定する。

AST100IU / L以上2点
Na133mmol / L以下2点
診断病日4病日以下2点
好中球比率80%以上2点
CRP10mg / dL以上1点
血小板数300,000 / μL以下1点
診断時月齢12ヶ月 以下1点

川崎病の合併症として最も問題となる冠動脈病変の検出のため、心臓超音波検査を経時的に実施する事が重要である。発症早期から複数回施行し、冠動脈の拡張や瘤形成の有無、サイズ、血栓の有無などを経時的に評価する。

6. 治療

川崎病の治療の最大の目標は、血管炎の結果として生じる冠動脈瘤形成を予防することであり、そのためには早期診断と早期治療介入が重要である。
急性期治療の第一選択薬は免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)であり、一般的に2g/kgを24時間かけて単回静注する。治療不応高リスク患者に対しては、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンパルス、シクロスポリンといった別の薬剤を追加して初期治療を強化する。
初期治療に対して不応であった場合には個々の症例に応じて追加治療を実施する。そのエビデンスは乏しいが、IVIG再投与が最も多く実施されている。その他にプレドニゾロン、メチルプレドニゾロンパルス療法、インフリキシマブ、シクロスポリン、血漿交換等が追加治療として川崎病急性期治療のガイドラインでは例示されている。
アスピリンは急性期には中用量(30〜50mg/kg/日)で併用し、解熱後に低用量(2~5 mg/kg/日)に減量する。遠隔期治療としてアスピリンは冠動脈瘤が完全に消退するまで、または冠動脈病変がない場合は急性期のアスピリン終了後も数ヶ月間継続する。
冠動脈瘤が残存する場合は低用量アスピリンの長期服用に加え、巨大冠動脈瘤や血栓形成のリスクが高い症例では、ワーファリンなどの抗凝固薬が使用される。冠動脈瘤による高度狭窄や閉塞により、心筋虚血が進行する場合には、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)などの外科的治療が検討される。

7. 予後

川崎病の予後は、冠動脈病変の有無と程度によって大きく異なる。冠動脈病変がない場合、大部分の症例は予後良好で特別な問題なく成長する。冠動脈瘤が形成された場合、小児期から成人期にかけて冠動脈瘤の退縮が見られることもあるが、一部の症例では瘤が残存したり、瘤が縮小しても血管壁の瘢痕化や狭窄が進行したりすることがある。このような冠動脈障害が残存した症例では、将来的に心筋梗塞、狭心症、突然死などの心血管イベントのリスクが高まる。そのため、冠動脈病変の程度に応じた厳重な経過観察と、成人期への移行医療が重要となる。

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