1. 疾患概念
抗糸球体基底膜(glomerular basement membrane: GBM)抗体病は抗GBM抗体が陽性の血管炎のことをいう1)。肺にはGBMと共通する抗原が存在するため、抗GBM抗体病は肺と腎に病変を生じうる。腎臓に対しては組織学的に壊死性半月体形成性糸球体腎炎をもたらし、臨床経過としては激烈な急速進行性糸球体腎炎を呈する。肺に対しては肺胞出血をもたらし、腎と肺の双方を障害する場合はGoodpasture症候群と呼ばれ、非常に重症の病態である。抗GBM病は基底膜局所でin situ免疫複合体が形成されて発症する病変であるため、免疫複合体型小型血管炎に分類されている。
2. 疫学
公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターには、患者数は約200~400人と記載されている(http://www.nanbyou.or.jp/entry/4379)。
3. 病態生理
抗GBM抗体はⅣ型コラーゲンα3鎖のC末端に存在するNC1ドメインを抗原として認識している2)。Ⅳ型コラーゲンのα5鎖のNC1ドメインも抗原となりうる2)。これらはⅣ型コラーゲンα345鎖で構成された6量体中に存在し、通常は基底膜内に埋没している。しかし、感染症(インフルエンザなど)や吸入毒性物質(有機溶媒、四塩化炭素など)、喫煙などにより腎や肺の基底膜に障害が生じると、α345鎖が解離して抗原部位が露出することで、これに反応する抗GBM抗体が産生される。産生された抗GBM抗体の基底膜への結合を足がかりに、炎症細胞やサイトカインが誘導され、基底膜の断裂が生じ、重篤な臓器障害を引き起こす。
4. 症状
全身倦怠感や発熱、食欲不振、感冒症状、短期間の体重減少など他の血管炎と同様の症状がみられることが少なくない。その他、腎症状として腎炎を示す尿所見である糸球体性血尿(多くは顕微鏡的血尿、ときには肉眼的血尿もみられる)、蛋白尿、赤血球円柱、顆粒円柱などを示す。腎機能も急速に低下するため乏尿や浮腫もしばしば見られる。肺出血を合併した場合は血痰や呼吸困難を呈する。
5. 検査
抗GBM抗体は抗GBM病では必発であるため、その測定は重要である。血清中の抗GBM抗体の証明は、腎組織における間接蛍光抗体法による方法と、固相化 GBM抗原に対する循環血漿中の抗体を検出する方法がある。腎組織に対する間接蛍光抗体法は特異度は高いものの免疫染色に精通している必要があること、抗体価が低い場合には検出できないことが問題である。固相化GBM抗原に血清を反応させる方法は感度、特異度ともに90~100%と良好であることが報告されている3)が、ポリクローナルな免疫活性化を生じている場合は偽陽性を呈することもある。一方、IgAやIgG4などの稀なクラスの抗体の場合は検出できないこともある4,5)。
6. 診断
血清の抗GBM抗体は疾患標識抗体であり、診断の主要項目として用いられている。抗GBM腎炎の確定診断は1) 血尿(多くは顕微鏡的血尿、稀に肉眼的血尿)、蛋白尿、円柱尿などの腎炎性尿所見を認める、2) 血清抗GBM抗体が陽性である、3) 腎生検で糸球体係蹄壁に沿った線状の免疫グロブリンの沈着と壊死性半月体形成性糸球体腎炎を認める、のうち、1)及び2)、または1)及び3)を認める場合には「抗GBM腎炎」と診断する。
7. 治療
抗GBM腎炎発症から腎機能廃絶までの時間的猶予は数日から数週ときわめて短期間6)であるため、免疫抑制療法により速やかに急性炎症の沈静化を図るとともに、原因となっている抗GBM抗体の体内からの一刻も早い除去が必要である。そのため、副腎皮質ステロイドパルス療法、免疫抑制薬、血漿交換療法が推奨される。
8. 予後
抗GBM病による急速進行性糸球体腎炎の腎予後は極めて不良であり、ANCA関連血管炎の腎予後が2年で8割程度であるのに対し、抗GBM腎炎では2年で4割程度である7)。肺出血を伴えば生命予後も著しく不良となる。一方、一般的には再燃率が低いことが知られており、免疫抑制療法は一定の期間を経たのちに安全に中止することが可能である。
参考文献
- Jennette JC, et al. Arthritis Rheum 2013; 65: 1-11.
- Pedchenko V, et al. N Engl J Med 2010; 363: 343-54.
- Sinico RA, et al. Nephrol Dial Transplant 2006; 21: 397-401.
- Borza DB, et al. Am J Kidney Dis 2005; 45: 397-406.
- Ohlsson S, et al. Am J Kidney Dis 2014; 63: 289-93.
- Pusey CD. Kidney Int 2003; 64: 1535-50.
- 松尾清一, 他. 日腎会誌2011; 53: 509-55.






