1. 疾患概念
報告者Leo Buergerにちなんでバージャー病(ドイツ語読みはビュルガー病)、あるいは閉塞性血栓血管炎(thromboangiitis obliterans: TAO)と称される。主に若年喫煙者の四肢の主幹動脈に、多発性かつ分節的に閉塞性の血管全層炎を来す疾患である。特に下肢動脈に好発して、虚血症状として間欠性跛行や安静時疼痛、虚血性皮膚潰瘍、壊疽(特発性脱疽とも呼ばれる)を来す。しばしば表在静脈にも血栓性静脈炎を生じ (遊走性/逍遥性静脈炎)、喫煙の継続は病勢を悪化させる。
2. 疫学
患者は地中海沿岸、南アジア、東アジアに多く、北米では1980年代までに激減した。日本でも1970年後半から発生は減少し、近年の推計患者数は約7,000人で、有病者は高齢化している。好発年齢は20から40歳代で、圧倒的に男性が多い。また患者の9割以上に明らかな喫煙歴があり、大量喫煙者が多い。受動喫煙を含めるとほとんどの患者に喫煙歴があるとされる。女性患者も増加しており、喫煙の影響と推定されている。
3. 病態生理
原因はいまだ不明である。特定の遺伝的素因(human leukocyte antigen [HLA]や一塩基多型)が関連するとの説や、歯周病菌などの感染が原因でありうるとの研究結果もある。本疾患では血管攣縮や血管内皮細胞の障害、血液の過凝固状態がみられる。喫煙はこれらを惹起し発症の誘因になると考えられている。病気の進行抑制には禁煙が有効である。
病理組織学的には、炎症細胞はおもに血管内膜および内腔を閉塞している血栓に認められ、内弾性板の構造は保たれるのが特徴である。多発性の分節的閉塞が四肢の中型動脈に生じ、しばしば表在静脈にも炎症を生じる。病変は下腿以遠と前腕以遠に好発し、上肢よりも下肢に多くみられる。表在静脈炎は再発性かつ移動性に生じる(遊走性/逍遥性静脈炎)。まれに大動脈や内臓動静脈にも病変が報告されている。
4. 症状
四肢末梢部で動脈閉塞による慢性虚血の症状が生じる。軽度の時は手足の冷感やしびれ感、寒冷暴露時のレイノー現象、皮膚の温度低下や色調変化などを呈し、重度になると間欠性跛行や安静時疼痛が出現する。また肢端には萎縮、体毛の減少、皮膚の硬化、爪の発育不全や胼胝を伴う。手指や足趾に、些細な外傷が契機で急速に難治性の虚血性潰瘍を形成しやすく、進行すると壊死に至る(特発性脱疽)。最近増加している閉塞性動脈硬化症と同様の症状であるため、鑑別診断に注意を要する。遊走性静脈炎(皮下静脈の発赤、硬結、疼痛など)およびその既往も主要な症状の1つである。
5. 検査
1)身体診察
全肢について視診、皮膚温や脈拍の触診、血管雑音の聴診を行う。アレンテストや下肢挙上下垂試験も虚血の診断に有用である。
2)機能検査
下肢の罹患では足関節上腕血圧比(ankle-brachial index: ABI)や足趾上腕血圧比(toe-brachial index: TBI)が低値を示す。運動負荷ABIの回復時間は、血液供給の予備能の評価に有用である。潰瘍や強い疼痛など重度の虚血を示唆する症状があれば、皮膚灌流圧や経皮酸素分圧の測定で血流を評価する。サーモグラムを用いた皮膚温測定では、冷水負荷によるレイノー現象や、治療薬に対する反応が観察できる。
3)画像検査
動脈の閉塞部位はMR angiographyやCT angiographyによって把握できる。血行再建術を考慮する場合には、血管造影検査によって詳細な評価を行う。閉塞像は途絶型、先細り型が多い。発達した側副血行路の像はコルクの栓抜き状、樹根状、橋状を呈する。病変よりも中枢側の動脈壁は平滑で、動脈硬化性の所見を認めない。
4)血液検査
特異的なマーカーはない。炎症の強さは必ずしも赤血球沈降速度やCRPに反映されない。
6. 診断
診断基準を表1に示す。なお、本疾患は厚生労働省の指定難病に指定されており、難病情報センターに記載がある。
(https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/upload_files/File/047-202404-kijyun.pdf)
7. 治療
受動喫煙を含め、禁煙を厳守させることが最も大切であり、このために適切な禁煙指導を行う必要がある。また患肢の保温、保護に努めて靴ずれなどの外傷を避け、歩行訓練や運動療法を基本的な治療として行う。
薬物療法としては抗血小板薬や抗凝固薬、プロスタグランジンE1 製剤の静注などが行われる。重症例に対しては末梢血管床が良好であれば、バイパス術などの血行再建術を行う。吻合に適した動脈や自家静脈がないなど血行再建術が不可能な場合は、交感神経節切除術や交感神経節ブロックが行われている。また適切な疼痛管理を併用する。肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor: HGF)や細胞移植を用いた血管新生療法について検討が進んでいる。
8. 予後
生命予後に関しては閉塞性動脈硬化症と異なり、心、脳、大血管病変を合併することはないために良好であるが、四肢の切断を必要とすることもあり、就労年代の成年の QOL(quality of life)を著しく脅かすことも少なくない。喫煙の継続は切断の危険を増大させる。
参考文献
- Watanabe Y, Miyata T, Shigematsu K, et al. Current Trends in Epidemiology and Clinical Features of Thromboangiitis Obliterans in Japan - A Nationwide Survey Using the Medical Support System Database. Circ J. 2020;84(10):1786-96.
- Watanabe Y, Shimizu Y, Hashimoto T, et al. Demographic Traits, Clinical Status, and Comorbidities of Patients With Thromboangiitis Obliterans in Japan. Circ J. 2024;88(3):319-28.
- Kobayashi M, Sugimoto M, Komori K. Endarteritis obliterans in the pathogenesis of Buerger’s disease from the pathological and immunohistochemical points of view. Circ J. 2014;78(12):2819-26.
- Malecki R, Kluz J, Przezdziecka-Dolyk J, et al. The Pathogenesis and Diagnosis of Thromboangiitis obliterans: Is It Still a Mystery? Advances in Clinical and Experimental Medicine. 2015;24(6):1085-97.
- Iwai T, Umeda M, Inoue Y. Are There Any Objections against Our Hypothesis That Buerger Disease Is an Infectious Disease? Annals of Vascular Diseases. 2012;5(3):300-9.
- Ohta T, Ishioashi H, Hosaka M, et al. Clinical and social consequences of Buerger disease. J Vasc Surg. 2004;39(1):176-80.
- 重松邦広, 重松宏, 安田慶秀. Buerger病の長期予後について(全国アンケート調査結果)に関する研究. 難治性血管炎に関する調査研究.平成15年度総括・分担研究報告書 2004. p. 115-119.
表1. バージャー病の診断基準
Definiteを対象とする。
A. 症状
診断に必要な症状
- 四肢の冷感、しびれ感、色調変化、チアノーゼ、レイノー現象
- 間欠性跛行
- 指趾の安静時疼痛
- 指趾の潰瘍、壊死
B. 検査所見
血管画像診断所見a :四肢末梢の動脈b を含む四肢動脈に検出される閉塞性病変。以下の所見がみられる。
- 四肢末梢動脈病変に、動脈硬化性の壁不整がない(虫食い像、石灰化沈着など)
- 多発的分節的閉塞
- 二次血栓の延長による慢性閉塞の像
- 閉塞が途絶状・先細り状
- コイル状、樹根状、ブリッジ状の側副血行路
a: デジタルサブトラクション(DSA)血管造影法、CT angiography、MR angiographyなど
b: 下肢では膝関節より末梢、上肢では肘関節より末梢の動脈
C. 鑑別診断
- 閉塞性動脈硬化症
- 外傷性動脈血栓症
- 膝窩動脈捕捉症候群
- 膝窩動脈外膜嚢腫
- 膠原病および類縁疾患
- 血管ベーチェット病
- 胸郭出口症候群
- 塞栓症(心原性など)
<診断のカテゴリー>
Definite:
本症発症時、A.のうち1項目以上及びBのうち①を含む2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。
注釈:女性、喫煙歴が明らかでない患者、50歳以上の発症者、動脈硬化の危険因子(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)を有する患者では、他疾患との鑑別をより厳密に行う。新規の認定審査には、血管画像検査の電子ファイルまたは報告書のコピーの提出を要する。
重症度分類
3度以上を医療費助成の対象とする。
1度
患肢皮膚温の低下、しびれ、冷感、皮膚色調変化(蒼白、虚血性紅潮など)を呈する患者であるが、禁煙も含む日常のケア、または薬物療法などで社会生活・日常生活に支障のないもの。
2度
上記の症状と同時に間欠性跛行(主として足底筋群、足部、下腿筋)を有する患者で、薬物療法などにより、社会生活・日常生活上の障害が許容範囲内にあるもの。
3度
指趾の色調変化(蒼白、チアノーゼ)と限局性の小潰瘍や壊死または3度以上の間欠性跛行を伴う患者。通常の保存的療法のみでは、社会生活に許容範囲を超える支障があり、外科療法の相対的適応となる。あるいは 1 肢以上の手・足関節より末梢側における欠損で日常生活に支障がある患者。
4度
指趾の潰瘍形成により疼痛(安静時疼痛)が強く、社会生活・日常生活に著しく支障を来す。薬物療法は相対的適応となる。したがって、入院加療を要することもある。あるいは、1 肢以上の手・足関節より中枢側における切断で日常生活に支障がある患者。
5度
激しい安静時疼痛とともに、壊死、潰瘍が増悪し、入院加療にて強力な内科的、外科的治療を必要とするもの。(入院加療:点滴、鎮痛、包帯交換、外科的処置など)。あるいは、2 肢以上の手・足関節より中枢側における切断で日常生活に著しい支障がある患者。