巨細胞性動脈炎

1. 疾患概念

巨細胞性動脈炎は大動脈とその主要な分枝動脈の狭窄・閉塞、あるいは拡張をきたし、病理学的に巨細胞を伴う肉芽腫性血管炎を呈する高齢者に好発する稀少疾患である。これまで側頭動脈炎やHorton病などの呼称があったが、2012年改訂Chapel Hill分類においてLarge vessel vasculitisの中に分類され、現在の巨細胞性動脈炎 (giant cell arteritis: GCA)に呼称が統一された。


2. 疫学

人種(北欧由来の白人に多い)、遺伝的素因(HLA-DRB1*04:01, 04:04/04:08)、地理的な偏り(北欧では南欧に比べ2倍多い)などが知られており、日本人には少ない。1997年の全国病院受療患者数調査では、患者数690人(人口10万対0.65人)、男女比は1:1.7であった。また50歳以上に好発し、前記統計での平均発症年齢は71.5±10.8歳であった。


3. 病態生理

遺伝因子としては、ヒト白血球型抗原(human leukocyte antigen: HLA) class Ⅱ領域との関連が報告されている。欧米ではDRB1*04ハプロタイプと疾患の発症、ステロイド抵抗性、視力障害などの臨床症状との関連が報告されている。
環境因子としては、喫煙、ウイルス(パルボウイルスB19、水痘・帯状疱疹ウイルス)などが報告されているものの確定的ではない。
病理学的には、大血管周囲に巨細胞を伴う肉芽腫性血管炎を生じ、炎症および血管の閉塞、拡張が認められる。


4. 症状

  1. 血管炎の全身症状
    発熱、易疲労感、体重減少、筋痛、関節痛、症候性貧血。
  2. 各血管の炎症や虚血による症状
    1. 外頚動脈病変による局所的頭痛、側頭動脈の腫脹・圧痛・拍動低下、顎跛行、舌跛行や下顎痛。
    2. 眼動脈病変による虚血性視神経症、視力低下、失明。脳動脈病変による一過性脳虚血発作、脳梗塞、片麻痺。
    3. 総頸動脈・内頸動脈病変による頸部痛、頸部雑音、めまい、ふらつき、眼前暗黒感、失神。
    4. 鎖骨下動脈病変による上肢痛、上肢冷感、上肢易疲労性、橈骨動脈拍動の減弱ないし消失、10 mmHg以上の血圧左右差、盗血現象(鎖骨下動脈起始部に狭窄・閉塞がある場合、上肢の運動負荷により、椎骨動脈を逆行して脳動脈血が盗血され、めまい・失神などを来す)。
    5. 大動脈病変による胸痛、背部痛、大動脈瘤・解離性大動脈瘤、大動脈弁閉鎖不全。
冠動脈病変による狭心症、心筋梗塞。
    6. 総腸骨動脈病変による間欠的跛行、下肢冷感。
  3. 併存症による症状
    リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR)を約30%に合併する。肢帯筋・四肢近位筋の自発痛・圧痛を自覚する。
  4. 各症状の頻度
    各症状の頻度については、1998年の旧厚生省疫学研究班および難治性血管炎分科会の調査結果で報告されている。(表1

5. 検査

  1. 血液検査
    急性期炎症を反映して、白血球増加、赤沈亢進、C-反応性タンパク質 (CRP)上昇、症候性貧血を示す。
  2. 眼底検査
    虚血性視神経症では、視神経乳頭の虚血性浮腫混濁、網膜の軟性白班を認める。
  3. 動脈生検
    罹患部位の動脈の病理組織像では、肉芽腫性動脈炎(炎症細胞浸潤、多核巨細胞、壊死)、内弾性板の破壊、内膜肥厚が認められ、進行期では、内腔の血栓性閉塞を認める。病変は分節状に分布し、巨細胞を認めないこともあるため、総合的な評価を行う必要がある。
  4. 画像検査
    血管超音波検査では、側頭動脈のhalo徴候を認めることがある。MR血管造影検査(MRA)は非侵襲的に頭蓋領域、中型・大型血管の評価が可能である。CT検査はMRIに比べて空間解像度に優れ、全身の血管を評価が可能である。造影CTおよび3次元画像の再構築により、病変の把握がしやすい。血管造影検査は侵襲を伴うが、解像度に優れる利点がある。18F-FDG PET-CT検査は、病変部位と血管壁の炎症を反映出来る検査として注目が集まっている。動脈硬化性病変においても、FDGの取り込みがあることがあり、画像の解釈に注意を要する。2016年1月現在、保険適応なく、高コストである。
  5. 生理機能検査
    心電図、心臓超音波検査では、心合併症の評価の評価を行う。

6. 診断

診断基準としては、1990年米国リウマチ学会(ACR)分類基準(表1)が広く用いられている。厚生労働省の特定疾患個人調査票もこの基準に準拠している。亜系として、側頭動脈・眼動脈などの頭蓋領域の動脈にとどまる頭蓋型巨細胞性動脈炎(cranial giant cell arteritis:cranial GCA)と大動脈・総頸動脈・鎖骨下動脈などの頭蓋領域外の動脈を侵す大血管型巨細胞性動脈炎(large-vessel giant cell arteritis:LV-GCA)に分類される。
病歴、身体所見、動脈生検を含む各種検査により鑑別診断を進めるとともに、病変の広がり、活動性、重症度を評価する。なお、本疾患は厚生労働省の指定難病に指定されており、難病情報センターに記載がある(http://www.nanbyou.or.jp/entry/3929)。


7. 治療

1. 薬物療法

  • 急性期(寛解導入療法)
    急性期にはステロイドによる寛解導入療法が行われる。血管炎症候群の診療ガイドライン. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007年度合同研究班報告)では、眼症状・中枢神経症状・脳神経症状の何れかを認める場合にはプレドニゾロン1mg/kg/日、認めない場合にはPSL 30-40mg/日での治療開始が推奨されている。
  • 慢性期(寛解維持療法)
    2006-2007年度合同研究班研究班報告では、ステロイドの漸減は、初期投与量治療により臨床症状、所見が改善を認めた場合には、初期投与量の2-4週間の継続の後に、PSL換算20mg/日以上では10mg/2週ごと、PSL換算10-20mg/日では2.5mg/2週ごと、PSL換算10mg/日以下では1mg/4週ごと漸減し、PSL維持量10mg/日以下もしくは中止とすることが提唱されている。再燃を繰り返す症例や、合併するPMRの再燃も考慮に入れて、維持量を決定する必要がある。
  • 再燃・増悪症例
    炎症所見の強度や血管病変の広がり、治療標的となる臓器病変の種類、合併症を十分考慮して、ステロイドの増量よる再寛解導入を行う。
    ステロイド抵抗症例あるいは、減量困難例、副作用例では、免疫抑制薬を併用する。(EULAR recommendationsではステロイド減量効果を有する薬剤としてメトトレキサートが推奨されている。 (エビデンスレベル1A) レベルの高いエビデンスはないが、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロホスファミドなどが用いられることもある)
    生物学的製剤(リツキシマブ、TNF阻害薬、IL-6受容体阻害薬)が有効であったと症例報告がある。(2016年1月現在、保険適応なし)
  • 抗血小板療法
    少量アスピリンによる脳血管イベントを有意に低下したとの報告があり、禁忌に該当しない場合は併用する。
  • 外科的治療
    各動脈の高度狭窄や閉塞での虚血症状を呈する場合は、血管内治療によるステント術やバイパスグラフトなどによる血管外外科手術の適応となる。また、動脈瘤の破裂・解離の危険がある場合は血管外手術の適応となる。

8. 予後

 1998年の旧厚生省疫学研究班と難治性血管炎分科会による疫学調査において、治癒・軽快が87.9%であり、予後は悪くないとされている。
しかし、血管炎の虚血による失明、脳梗塞や心筋梗塞、動脈瘤の解離・破裂は注意を要する。再燃を繰り返す症例もあり、特にステロイドを中心とした治療関連合併症としての感染症、病的骨折、骨粗鬆症、糖尿病、高血圧、高脂血症なども注意が必要である。


参考文献

  1. 血管炎症候群の診療ガイドライン. 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006-2007年度合同研究班報告). Circ J 2008;72 (Suppl. Ⅳ):1253-1318.
  2. Hunder GG, Blich DA, Michel BA, et al. The American College of Rheumatology 1990 criteria for the classification of giant cell arthritis. Arthritis Rheum 1990; 33: 1122-1128.
  3. Mukhtyar C, Gulleven L, Cid MC, et al. EULAR recommendations for the management of large vessel vasculitis. Ann Rheum Dis. 2009; 68: 318-323.
  4. 難病情報センター巨細胞性動脈炎 (http://www.nanbyou.or.jp/entry/3929).
  5. 公益財団法人日本リウマチ財団教育研修委員会、一般社団法人日本リウマチ学会生涯教育委員会編集、土橋 浩章、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、リウマチ病学テキスト改訂第2版, p248−252, 診断と治療社, 2016.
  6. Koster MJ, Matteson EL, Warrington KJ. Recent advances in the clinical management of giant cell arteritis and Takayasu arteritis. Curr Opin Rheumatol. 2016; 28: 211-217.

表1. 巨細胞性動脈炎の臨床症状
(1998年厚生省疫学研究班と難治性血管炎分科会調査結果より)

症状 陽性者数(%) 症状 陽性者数(%)
全身症状 36/65 55.4 眼症状 34/70 48.6
発熱 20/61 32.8 眼痛 14/67 20.9
体重減少 15/60 25.0 視力障害 29/67 43.3
拡張期高血圧 9/60 15.0 複視 5/65 7.7
リンパ節腫大 1/54 1.9 虚血性視神経炎 17/67 25.4
浮腫 5/57 8.8 一過性黒内障 2/65 3.1
精神神経症状 61/68 89.7 視神経萎縮 13/67 19.4
限局性の頭痛 53/67 79.1 視野障害 19/64 29.7
頭皮部の疼痛 38/60 63.3 失明 4/62 6.5
側頭動脈痛 51/65 78.5 上強膜炎 3/66 4.5
側頭動脈拍動触知低下 22/55 40.0 虹彩炎 2/66 3.0
側頭動脈部拍動性頭痛 30/57 52.6 眼球突出 1/68 1.5
 脳神経症状 6/66 9.1 心症状 6/57 10.5
脳梗塞 8/66 12.1 心内膜炎 0/55 0.0
多発単神経炎(運動障害あり) 1/63 1.6 心外膜炎 0/55 0.0
多発単神経炎(運動障害なし) 1/62 1.6 伝導障害 4/55 7.3
頭皮部の結節 10/65 15.6 心筋梗塞 2/57 3.5
咀嚼困難 10/68 14.7 狭心症 3/57 5.3
咀嚼・嚥下筋力低下 10/65 15.4 呼吸器症状 6/60 10.0
嚥下困難 4/67 6.0 労作性呼吸困難 2/59 3.4
意識障害 2/67 3.0 乾性咳 3/59 5.1
痙攣発作 0/68 0.0 気管支喘息 2/59 3.4
脳出血 1/68 1.5 間質性肺炎・肺繊維症 3/58 5.2
精神症状 5/68 7.4 肺出血 1/57 1.8
無菌性髄膜炎 0/67 0.0 血痰 2/58 3.4
皮膚症状 8/58 13.8 胸膜炎 0/57 0.0
皮膚潰瘍・梗塞 1/57 1.8 肺浸潤 1/57 1.8
皮下結節 4/56 7.1 肺梗塞 1/57 1.8
紅斑 3/56 5.4 肺高血圧症 0/55 0.0
リベドー 0/54 0.0 消化器症状 4/60 6.7
紫斑・出血斑 1/57 1.8 吐血 1/60 1.7
指壊疽 0/58 0.0 下血 2/60 3.3
レイノー現象 2/56 3.6 腹膜炎 0/60 0.0
関節・筋症状 29/64 45.3 イレウス 0/58 0.0
関節痛(炎) 13/61 21.3 腸梗塞 1/58 1.7
筋肉痛(炎) 18/61 29.5 その他の臓器梗塞 1/46 2.2
筋萎縮 5/57 8.8      
筋力低下 10/56 17.9      

表2. 巨細胞性動脈炎の分類基準 (ACR、1990年)

  1. 発症年齢50歳以上(症状または所見の出現が50歳以上)
  2. 新たな頭痛(頭部に限局する新規または新たな種類の痛み)
  3. 側頭動脈の異常 (側頭動脈の触診時圧痛または拍動減弱、頸動脈の動脈硬化性変化とは関連性のないこと)
  4. 赤沈亢進 (ESR 50mm/hr以上、Westergren法)
  5. 動脈生検の異常所見 (動脈の生検において、単核球浸潤または肉芽腫性炎症が優位で、通常は多核巨細胞を伴う血管炎所見)

上記5項目中3項目以上で巨細胞性動脈炎と分類(感度93.5%、特異度91.2%)
(文献2より引用改変)

研究代表者 針谷正祥 ご挨拶
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