顕微鏡的多発血管炎

1. 疾患概念

1994年に米国Chapel Hillで開かれた国際会議において、これまで結節性多発動脈炎と診断されていた症例のうち、中型の筋性動脈に限局した壊死性血管炎のみを結節性多発動脈炎と定義し、小血管(毛細血管、細小動・静脈)を主体とした壊死性血管炎は別の疾患群として区別されることになった。後者は、血管壁への免疫複合体沈着がほとんどないことと抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)陽性率が高いことを特徴とし、ANCA関連血管炎症候群と定義された。このうち、肉芽腫性病変のみられないものが顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis: MPA)と定義された。


2. 疫学

男女比はほぼ1:1で、好発年齢は55~74才と高齢者に多い疾患である。年間発症率はドイツでは百万人あたり3人、英国にでは百万人あたり8.4人と報告されている。わが国の難治性血管炎に関する調査研究班の新規発症患者コホートでは、発症時平均年齢71.1歳、男女比は1.2で女性の比率がやや高かった。


3. 病態生理

原因は不明である。アジア系集団では、HLA-DRB1*09:01、HLA-DRB1*11:01がリスクアリルとする報告がある。好中球細胞質の酵素タンパク質であるミエロペルオキダーゼ(MPO)に対する自己抗体(MPO-ANCA)が高率に検出されることから、背景に自己免疫異常が存在すると考えられる。このANCAが小型血管炎の発症に関わることが判明してきた。過去の研究班コホートでは、78名中97.4%がMPO-ANCA陽性、2.6%がPR3-ANCA陽性、1.3%がANCA陰性であった。最近、好中球細胞死の形態である好中球細胞外トラップ(NETs)の制御異常がANCA関連血管炎の病態形成に関与することが報告されている。


4. 症状

発熱、体重減少、易疲労感、筋痛、関節痛などの全身症状(約70%)とともに、組織の出血や虚血・梗塞による症候が出現する。腎臓では壊死性糸球体腎炎が最も高頻度であり、尿潜血、赤血球円柱と尿蛋白が出現し、血清クレアチニンが上昇する。数週間から数ヶ月で急速に腎不全に移行するため、早期診断、早期治療が極めて重要である。その他、頻度が高い臓器症状は、呼吸器症状(間質性肺炎:約50%、肺胞出血:約10%)、皮膚症状(紫斑、皮膚潰瘍、網状皮斑、皮下結節など:約20%)、神経症状(多発性単神経炎など:約40%)、耳鼻科領域の症状(約10%)などである。間質性肺炎や肺胞出血を併発すると咳、労作時の息切れ、頻呼吸、血痰、喀血、低酸素血症を生じる。結節性多発動脈炎に比べると高血圧の頻度は少ない(約30%)。心症状は約10%にみられるが、消化管病変は他のANCA関連血管炎に比べて少ない。


5. 検査

主要な検査所見は、(6)診断の項の中で述べる。確定診断には組織生検が必要であり、皮膚を含めた生検可能な臓器における早期の病理診断が重要である。毛細血管や細動脈・細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤を認め、血管壁への免疫複合体の沈着はないか乏しい。腎・肺が好発部位である。肉芽腫性病変はみられない。


6. 診断

表1に示す診断基準により、確実(definite)、疑い(probable)と判定する。なお、本疾患は厚生労働省の指定難病に指定されており、難病情報センターに記載がある(http://www.nanbyou.or.jp/entry/86)。


7. 治療

  • 可能であれば組織生検により血管炎を証明し、可及的早期に確定診断し、迅速に寛解導入療法を開始することが長期的予後を改善する上で重要である。
  • 一旦寛解導入されたら(治療開始から2~5ヶ月以内が多い)、副腎皮質ステロイドを維持量(一般的な目標は6か月後にプレドニゾロン換算10mg/日未満)まで漸減する。寛解導入療法でシクロホスファミドを使用している場合には、他の免疫抑制薬(アザチオプリン、MTX)に変更する。
  • 生命の危険を伴う最重症例には、シクロホスファミドに加えて血漿交換療法を併用する。
  • 難治例に対する治療薬として、抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブが用いられる。
  • 再燃時には寛解導入療法に準じて治療を行う。
  • 細菌感染症・日和見感染症対策を十分に行う。

1) 治療指針

① 寛解導入療法

疾患活動性評価、治療強度の選択には、専門的知識と経験が必要であり、顕微鏡的多発血管炎あるいはANCA関連血管炎を疑われた場合には、まず専門医を受診することが最も重要である。

全身型または主要臓器障害を呈する血管炎では,副腎皮質ステロイド(ステロイド)(PSL換算1mg/kg/day)に加えてシクロホスファミドの併用が推奨されている。臓器限局または早期全身型に対する初期治療には,シクロホスファミドまたはメトトレキサート(保険適応外)とステロイドの併用が推奨されている。ただし、臓器障害の程度、患者の合併症や全身状態によっては、免疫抑制薬投与量を減量する場合、ステロイド単独による治療を選択する場合、ステロイド投与量を減量する場合、ステロイドパルス療法を併用する場合もある。ステロイドパルス療法は重症の血管炎,特に急速進行性糸球体腎炎(RPGN)を呈した際にしばしば用いられる。重篤な腎障害(≧Cr5.8mg/dl)を認める場合や肺胞出血などの生命にかかわる重篤な臓器障害を合併する場合はステロイド+/-シクロホスファミドに加え,血漿交換療法(2週間以内に4Lを7回)を併用する。

シクロホスファミドは連日経口投与が標準的に用いられてきたが、現在では間歇的点滴静注療法が同等な有効性を持つことが示されており、経口投与に代わって広く用いられている。また、寛解導入療法に用いる免疫抑制薬としてシクロホスファミド、メトトレキサートのほかに、リツキシマブ(RIT)、ミコフェノール酸モフェチル(保険適応外)の有効性が報告されている。


② 寛解維持療法

寛解達成後にそれを維持することがAAV患者の長期予後改善につながる。寛解導入療法にステロイド+免疫抑制薬を用いて寛解を達成した場合には、寛解維持療法としてステロイド+アザチオプリンまたはステロイド+メトトレキサート(保険適応外)を用い、ステロイドを漸減する。寛解導入をステロイド単独で行った場合には、そのままステロイドを漸減する。ステロイド減量中に疾患活動性の上昇を認めた場合には、免疫抑制薬の変更・追加、あるいは、ステロイドの再増量にて対処する。ステロイドの副作用を最小限にするためには速やかな減量が望ましいが、早い減量は再燃のリスク因子であることも知られている。


2) 合併症の予防と治療

感染症の予防、ステロイドの副作用の評価と対応が特に重要である。強力な免疫抑制治療中は、バクタ、抗真菌薬の予防投与を行う。体重管理、糖尿病、高脂血症、骨粗鬆症、白内障、緑内障等のフォローを確実に行い、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンは可能な限り接種する。規則正しい食事、適切なカロリー摂取、カルシウム摂取を指導し、生活習慣病の発症を予防する。


8. 予後

適切な治療が行われないと生命予後が不良となる。出来るだけ早期に診断し、適切な寛解導入療法を行えば、8割以上は寛解する。治療開始の遅れ、あるいは初期治療への反応性不良により、臓器の機能障害が残存する場合がある。腎不全を呈する患者では透析療法が必要となる。また、再燃することがあるので、定期的に専門医の診察を受ける必要がある。過去の研究班コホートにおけるMPAの再燃率は約30%である。


表1.顕微鏡的多発血管炎 診断基準

(1)主要症候

【主要項目】

① 急速進行性糸球体腎炎
② 肺出血,もしくは間質性肺炎
③ 腎・肺以外の臓器症状:紫斑,皮下出血,消化管出血,多発性単神経炎など


(2)主要組織所見

細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死,血管周囲の炎症性細胞浸潤


(3)主要検査所見

① MPO-ANCA 陽性
② CRP 陽性 ③ 蛋白尿・血尿,BUN,血清クレアチニン値の上昇 ④ 胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血),間質性肺炎


(4)判定

① 確実(definite)

  1. 主要症候の2項目以上を満たし,組織所見が陽性の例
  2. 主要症候の①及び②を含め2項目以上を満たし,MPO-ANCAが陽性の例

② 疑い(probable)

  1. 主要症候の3項目を満たす例
  2. 主要症候の1項目とMPO-ANCA陽性の例

(5)鑑別診断

① 結節性多発動脈炎
② 多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症 )
③ 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/チャーグ・ストラウス症候群)
④ 川崎動脈炎
⑤ 膠原病(SLE,RAなど)
⑥ IgA血管炎(旧称:紫斑病血管炎 )


【参考事項】

  1. 主要症候の出現する1~2週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い。
  2. 主要症候①,②は約半数例で同時に,その他の例ではいずれか一方が先行する。
  3. 多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と平行して変動する。
  4. 治療を早期に中止すると,再発する例がある。
  5. 除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが,特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。

重症度分類

顕微鏡的多発血管炎の重症度分類で、3度以上が難病の対象となる。

1度:

ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。

2度:

ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とし、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。

3度:

機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障をきたしている患者。臓器病変の程度は注1の1~8の何れかを認める。

4度:

臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2の1~7の何れかを認める。

5度:

重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障をきたしている患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3の1~8の何れかを認める。


注1:以下のいずれかを認めること

  1. 肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、Pa02が60~70Torr。
  2. NYHA 2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上認める。
  3. 血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dlの腎不全。
  4. 両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。
  5. 拇指を含む2関節以上の指・趾切断。
  6. 末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。
  7. 脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力4)。
  8. 血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。

注2:以下のいずれかを認めること

  1. 肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。
  2. NYHA 3度の心不全徴候を認め、胸部X線上 CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、の何れかを認める。
  3. 両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。
  4. 1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。
  5. 末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。
  6. 脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。
  7. 血管炎による両眼的下血、嘔吐を認める。

注3:以下のいずれかを認めること

  1. 肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。
  2. NYHA 4度の心不全徴候を認め、胸部X線上 CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2以上を認める。
  3. 血清クレアチニン値が8.0mg/dlの腎不全。
  4. 両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。
  5. 2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。
  6. 末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。
  7. 脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。
  8. 血管炎による消化管切除術を施行。

※なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要な者については、医療費助成の対象とする。

研究代表者 針谷正祥 ご挨拶
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