悪性関節リウマチ/リウマチ性血管炎

1. 疾患概念

関節リウマチに中型・小型の血管炎を伴う場合に欧米ではリウマトイド血管炎(rheumatoid arteritis)と呼ばれている。悪性関節リウマチ(malignant rheumatoid arthritis, MRA)は日本独自の疾患名・概念であり、既存のRAに中小血管炎や肺線維症、胸膜炎などの関節外症状を伴い、難治性もしくは重症の臨床病態をみとめる場合にMRAと診断される。


2. 疫学

MRAはRA患者の0.6〜1.0%にみられるとされ診断時の年齢のピークは60歳代で、男女比は1:2である(1)。平成 25年度の医療受給者証保持者は6,433人であった。


3. 病態生理

MRAではリウマトイド因子(rheumatoid factor, RF)高値のことが多く、免疫複合体沈着が血管炎症の惹起に関与していると考えられている。また、疾患活動性が高く、リウマトイド因子陽性で長期罹患のRAに発症することが多い。通常のリウマトイド因子はおもに免疫グロブリンのIgMクラスに属するが,リウマトイド血管炎ではIgGクラスのリウマトイド因子が高率に認められる事より、活性化された補体成分による血管内皮障害,ケモアトラクタント作用を介した好中球やリンパ球の遊走,補体受容体を介した好中球やマクロファージの活性化など,血管炎の病態形成にかかわっていると考えられる(2).その他に喫煙や抗環状シトルリン化ペプチド抗体(anti-cyclic citrullinated peptide antibody; anti-CCP, ACPA)高値、抗リウマチ薬多剤抵抗性などとの関連性が示されている(3)。血管炎は、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa, PAN)に類似す内臓を系統的に侵し生命予後不良な全身性血管炎型(Bevans型)と、四肢末梢及び皮膚を侵し生命予後は比較的良好な内膜の線維性増殖を呈する末梢動脈炎型(Bywaters型)に分けられる。また、その他に間質性肺炎が主体の非血管炎型がある。


4. 症状

MRAでは、RAによる多関節炎に加えて、全身性血管炎型では38℃以上の発熱、体重減少、全身痛などの全身症状に加えて、心膜炎、腸間膜動脈梗塞、腎動脈梗塞、多発神経炎、皮膚潰瘍、紫斑、上強膜炎などの罹患した血管の種類により多彩な血管炎症状が出現する。特に多発単神経炎を合併する場合では、手指や足趾の痺れや疼痛など知覚障害と運動障害がみられ、橈骨神経障害では下垂手(drop hand)、腓骨神経障害では下垂足(drop foot)となり関節リウマチに由来する腱断裂との鑑別が必要である。末梢動脈炎型では皮膚潰瘍、梗塞、四肢先端の壊疽、壊死がみられ、進行は通常、緩徐である。非血管炎型では肺の間質性病変・繊維化が慢性に進行することが多い。


5. 検査所見

白血球および血小板増多、CRP陽性、赤沈促進など非特異的炎症所見がみられる。また、高ガンマグロブリン血症も通常認められる。特徴的なMRAに特徴的な検査異常としては、各種リウマチ反応が高力価を示す事があげらる。RAHA(rheumatoid arthritis hemagglutination)ないしはRAPA(rheumatoid arthritis particle agglutination)テストが2,560倍以上、もしくはRF 960IU/ml以上となることは診断基準に含まれている。IgGクラスのRFも高率にみられる。全身血管炎型では免疫複合体陽性がみとめられ、活動性RAでは増加することが多いためC3、C4および血清補体価は低下する場合がある。


6. 診断

厚生労働省により定められているMRの診断基準(表1)と重症度分類(表2)を示す。(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000062437.html)。鑑別診断が必要な疾患として、感染症や続発性アミロイドーシス、薬剤性の血管炎や肺・腎障害、Felty症候群や他の膠原病の合併などがある。MRAの血管炎では血管造影での小動脈瘤、毛細血管炎による糸球体腎炎や肺胞出血を認めることは少なく、抗好中球細胞質抗体(antineutrophil cytoplasmic antibody, ANCA)は陰性である。可能であれば生検(皮膚、神経・筋など)を施行し、壊死性血管炎や肉芽腫性血管炎、閉塞性内膜炎などの所見を確認する。
なお、本疾患は厚生労働省の指定難病に指定されており、難病情報センターに記載がある(http://www.nanbyou.or.jp/entry/43)。


7. 治療

抗リウマチ薬(disease modified anti rheumatic drugs, DMARDs)や生物学的製剤にてRAの疾患活動性自体をよくコントロールし、寛解もしくは低疾患活動性を達成し維持することがMRAの発症や増悪を防ぐために重要である。MRAでは、関節外症状の重症度に応じて副腎皮質ステロイド等による治療を行う。紫斑や皮膚潰瘍、四肢壊疽、知覚障害のみの多発単神経炎、重症でない胸膜炎などに対しては、プレドニゾロン(prednisolone, PSL)換算で20〜30mg/日程度のステロイド投与を行う。効果不十分の場合には、シクロフォスファミド(cyclophosphamide, CY)やアザチオプリン(azathioprine, AZ)などの免疫抑制薬を併用する。血管炎による臓器虚血・梗塞、多発単神経炎、奨膜炎などの重症病態では、大量経口ステロイド投与が必要とされ、緊急性や重症度によりメチルプレドニゾロンによるステロイドパルス療法も施行する。重症例ではさらにIVCY (500〜1000mg/日)や血漿交換療法の併用も考慮する。また、トシリズマブ(4)、アバタセプト(5)、リツキシマブ(6)などの生物学的製剤は、おいてもMRA治療薬についての有用性が報告されている。また、間質性肺炎・肺繊維症を主体とする非血管炎型に関しては、高分解能コンピュータ断層写真(HRCT)所見や胸腔鏡下肺生検(VATS)による2002年に発表されたアメリカ胸部疾患学会(ATS)とヨーロッパ呼吸器学会(ERS)による特発性間質性肺炎の臨床病理学的分類が参考にされ、そのタイプにより治療方針が異なる。もっとも重篤な病態である急速進行性の急性間質性肺炎(AIP)では大量ステロイド投与に加えてメチルプレドニゾロンによるステロイドパルス療法やIVCY (500〜1000mg/日)の併用も考慮する。通常型間質性肺炎(UIP)はステロイドや免疫抑制剤対する治療反応性が悪く急速に進行しない限りは積極的な治療介入は必要としない場合が多い。非特異的間質性肺炎(NSIP)はUIPに比べてステロイド反応性が良いとされ中等量(病変の程度や進行に応じて大量投与も検討)のステロイドが使用される。器質化肺炎(OP)もステロイド反応性は良好とされて中等量のステロイドが投与される。


8. 予後

血管炎による内臓病変や間質性肺炎を有すると一般的に生命予後は不良である。
悪性関節リウマチの転帰は、軽快21%、不変26%、悪化31%、死亡14%、不明・その他8%との最近の疫学調査成績がある。死因は呼吸不全が最も多く、次いで感染症の合併、心不全、腎不全などがあげられる(http://www.nanbyou.or.jp/entry/43)。


参考文献

  1. 松岡康夫:悪性関節リウマチ「難治性血管炎の診療マニュアル」(難治性血管炎に関する調査研究班 班長 橋本博史)2002, 35-40.
  2. 近藤恒夫 天野宏一 分子リウマチ治療 2016;9(3), 45-50.
  3. 田村直人 Frontiers in Rheumatology & Clinical Immunology 3(4); 23-26,
  4. Iijima et al.: Tocilizumab improves systemic rheumatic vasculitis with necrotizing crescentic glomerulonephritis. Modern Rheumatology 2015; 25: 138-142.
  5. Fujii W et al. The repid efficacy of abatacept in a patients with rheumatoid vasculitis. Modern Rheumatology 2012; 22: 630-634.
  6. Puechal X et al. Rituximab therapy for systemic vasculitis associated with rheumatoid arthritis: results from the Autoimmunity and Rituzimab Registry. Arthritis Care Rea 2012;64:331-339.

表1. 悪性関節リウマチの診断基準

1. 臨床症状

( 1 ) 多発性神経炎:知覚障害、運動障害いずれを伴ってもよい。
( 2 ) 皮膚潰瘍又は梗塞又は指趾壊疽:感染や外傷によるものは含まない。
( 3 ) 皮下結節:骨突起部、伸側表面もしくは関節近傍にみられる皮下結節。
( 4 ) 上強膜炎又は虹彩炎:眼科的に確認され、他の原因によるものは含まない。
( 5 ) 滲出性胸膜炎又は心嚢炎:感染症など、他の原因によるものは含まない。癒着のみの所見は陽性にとらない。
( 6 ) 心筋炎:臨床所見、炎症反応、筋原性酵素、心電図、心エコーなどにより診断されたものを陽性とする。
( 7 ) 間質性肺炎又は肺線維症:理学的所見、胸部X線、肺機能検査により確認されたものとし、病変の広がりは問わない。
( 8 ) 臓器梗塞:血管炎による虚血、壊死に起因した腸管、心筋、肺などの臓器梗塞。
( 9 ) リウマトイド因子高値: 2回以上の検査で、R A H AないしR A P Aテスト2 5 6 0倍以上( R F 9 6 0 I U /m以上)の高値を示すこと。
( 1 0 ) 血清低補体価又は血中免疫複合体陽性: 2回以上の検査で、C 3 、C 4などの血清補体成分の低下又はC H 5 0による補体活性化の低下をみること、又は2回以上の検査で血中免疫複合体陽性( C 1 q結合能を基準とする)をみること。

2. 組織所見

皮膚、筋、神経、その他の臓器の生検により小なし中動脈壊死性血管炎、肉芽腫性血管炎ないしは閉塞性内膜炎を認めること。

3. 判定基準

A C R / E U L A Rによる関節リウマチの分類基準 2 0 1 0年(表1 )を満たし、 上記に掲げる項目の中で、( 1 ) 1 .臨床症状( 1 )~( 1 0 )のうち3項目以上満たすもの、又は( 2 ) 1 .臨床症状( 1 )~( 1 0 )の項目の1項目以上と2 .組織所見の項目があるもの、を悪性関節リウマチ(M R A )と診断する。

4. 鑑別診断

鑑別すべき疾患、病態として、感染症、続発性アミロイドーシス、治療薬剤(薬剤誘発性間質性肺炎、薬剤誘発性血管炎など)の副作用があげられる。アミロイドーシスでは、胃、直腸、皮膚、腎、肝などの生検によりアミロイドの沈着をみる。関節リウマチ( R A )以外の膠原病(全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎など)との重複症候群にも留意する。シェーグレン症候群は、関節リウマチに最も合併しやすく、悪性関節リウマチにおいても約1 0%の合併をみる。フェルティー症候群も鑑別すべき疾患であるが、この場合、白血球数減少、脾腫、易感染性をみる。


表2. 悪性関節リウマチの重症度分類

1度

免疫抑制療法(副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬の投与)なしに1 年以上活動性血管炎症状(皮下結節や皮下出血などは除く)を認めない寛解状態にあり、血管炎症状による非可逆的な臓器障害を伴わない患者

2度

血管炎症状(皮膚梗塞・潰瘍、上強膜炎、胸膜炎、間質性肺炎など)に対し免疫抑制療法を必要とし、定期的な外来通院を要する患者、もしくは血管炎症状による軽度の非可逆的な臓器障害(末梢神経炎による知覚障害、症状を伴わない肺線維症など)を伴っているが、社会での日常生活に支障のない患者

3度

活動性の血管炎症状(皮膚梗塞・潰瘍、上強膜炎、胸膜炎、心外膜炎、間質性肺炎、末梢神経炎など)が出没するために免疫抑制療法を必要とし、しばしば入院を要する患者、もしくは血管炎症状による非可逆的臓器障害(下記①~⑥のいずれか)を伴い社会での日常生活に支障のある患者

① 下気道の障害により軽度の呼吸不全を認め、PaO2 が60~70Torr
② NYHA 2 度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮又はST 低下(0.2mV以上)の1 つ以上を認める
③ 血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dl の腎不全
④ 両眼の視力の和が0.09~0.2 の視力障害
⑤ 拇指を含む2関節以上の指・趾切断
⑥ 末梢神経障害による1 肢の機能障害(筋力3)

4度

活動性の血管炎症状(発熱、皮膚梗塞・潰瘍、上強膜炎、胸膜炎、心外膜炎、間質性肺炎、末梢神経炎など)のために、3 ヵ月以上の入院を強いられている患者、もしくは血管炎症状によって以下に示す非可逆的関節外症状(下記①~⑥のいずれか)を伴い家庭での日常生活に支障のある患者

① 下気道の障害により中等度の呼吸不全を認め、PaO2 が50~59Torr
② NYHA 3 度の心不全徴候を認め、X 線上 CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2 度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人工ペースメーカーの装着、のいずれかを認める
③ 血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dl の腎不全
④ 両眼の視力の和が0.02~0.08 の視力障害
⑤ 1 肢以上の手・足関節より中枢側における切断
⑥ 末梢神経障害による2 肢の機能障害(筋力3)

5度

血管炎症状による重要臓器の非可逆的障害(下記①~⑥のいずれか)を伴い、家庭内の日常生活に著しい支障があり、常時入院治療、あるいは絶えざる介護を要する患者

① 下気道の障害により高度の呼吸不全を認め、PaO2 が50Torr 未満
② NYHA 4 度の心不全徴候を認め、X 線上 CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2 度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人工ペースメーカーの装着のいずれか2以上を認める
② 血清クレアチニン値が8.0mg/dl の腎不全
② 両眼の視力の和が0.01 以下の視力障害
② 2 肢以上の手・足関節より中枢側における切断
② 末梢神経障害による3 肢の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2 以下)

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